哲学する建築家、白井晟一

  
 一昨日、パナソニック電工汐留ミュージアムの『建築家白井晟一 精神と空間』展を訪れた。白井晟一(しらい せいいち)という建築家のことを僕は知らなかっただが、人にすすめられて行ってみたら、これが思いのほか、よかった。

 白井晟一さんは30年近く前に亡くなったいる。なぜこのタイミングで展覧会を行っているのか、展覧会カタログの序文にあたる「ごあいさつ」を読んでもよく分からない。

 ただ、その「ごあいさつ」の中に、興味深い記述がいくつかある。

「学問としての哲学に興味を持ち、姉の勧めで進学した京都高等工芸学校(現京都工芸繊維大学)卒業後、哲学を学ぶためドイツに留学」

「木造住宅建築や浅草の善照寺、佐世保の親和銀行といった、機能主義、合理主義を軸に展開した戦後日本のモダニズムの潮流とスタンスを置いた建築作品を発表」

「20代後半ドイツに留学した白井は、1928年から33年のヨーロッパにあって独自の教養を身につけていきます。当時世界は全体主義への流れの中にあり、近代は輝かしいものではなく、ハイデルベルクやベルリンで学んだカントやディルタイ、ヤスパースやフッサールの哲学はその近代を理解し対峙する手立てとなり、加えて幼児期に経験した禅と書がその独自性を肉づけし、そして壮年期に入って、白井は顔眞卿、黄庭堅、米芾らを師として本格的に書と取り組んでいきます」

「本展では、白井晟一の建築作品に関連する写真やドローイング、模型、そして素晴らしく美しい図面とともに、書、装丁、エッセイなどを通して、これまで孤高と言われてきた白井晟一の全貌を紹介していきます」

 と、引用をしすぎた感もある。

 哲学にも造詣が深く、白井さんはひとつひとつの建物に思想を込めていたのかもしれない。だから、おそらく多作ではないのだろうと思ったが、カタログの作品リストで確認すると、実際の作品が80、計画で終わったものは26。この数は、現代日本を代表する建築家のひとり、安藤忠雄さんなどと比べるともしかしたら少ないのかもしれないが、展示を見ながら僕が想像していたよりはずっと多い。

 理想を極限まで追い求め、そのぶん、実現しないことも多い。そういう建築家なのかなと思いながら、展覧会場をまわっていた僕の予想は外れた。

 書も素晴らしかったが、僕が驚いたのは、白井さんの装丁。水上勉『くるま椅子の歌』は古書店かどこかで見たことがあり、「おおっ、これの装丁をしはったんか」とびっくり。ここにも紹介されているが、『チェーホフ小説集』の美しさに見とれてしまった。

 
 
 
 上記は、白井作品のクオリティの高さとは正反対に位置するような、僕のスケッチ。まあ、ご愛嬌ということで勘弁願いたい。

 今回の展覧会、派手ではないが、白井さんの思想や丁寧な仕事ぶりにふれ、大量消費社会やビルド&スクラップの風潮などを考えさせられた。展覧会場のスペースがもっと広ければ、より良かったと思う。

 展示替えがあるようなので、「後半」展にもぜひ足を運んでみたい。
 
 
 


Comments

“哲学する建築家、白井晟一” への4,917件のフィードバック

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