同じ曲を女性が歌うのと男性が歌うのでは

 
 先週末、原稿を書きながらFM放送を聴いていたら、何度も耳にしたことのある歌が流れてきた。それは、矢野顕子さんの『ラーメンたべたい』。
 
 この曲がかかると、本当にラーメンを食べたくなることもあるのだが、その日もそうだった。おなかが少し減っていたし、11月も終わろうとする東京の夕方はけっこう肌寒かったから、ラーメンを食べなくなったのかもしれない。

 この曲に食欲を刺激されるのは毎度のことだが、その日違っていたのは、歌い手が矢野顕子さんではなかったこと。男性で、弾き語りが得意な永遠のギター少年(少年ではないか)で、広島出身の人なのですが、さて誰でしょうか。
 
 とクイズする必要はないか。答えは奥田民生さんだったのだが、僕が感じた「あれっ!?]という部分の正体は、矢野顕子さんと奥田民生さんの声の違いや歌い方などから来ているのではないように思えた。
 
 僕はその「あれっ!?]に気づいたのは、歌詞のこんな一節。

 
  男もつらいけど 女もつらいのよ

 
 女性である矢野顕子さんの歌う「男もつらいけど女もつらいのよ」と、男性である奥田民生さんの歌う「男もつらいけど女もつらいのよ」が違うということだったような気がする。

 その理由がこう書きながらもはっきりしないのだれど、男と女が出てくる順番を入れ替えるとよかったのだろうか。奥田さんが歌う場合は
 
 
  女もつらいけど 男もつらいのよ

 
とするとか。

 いや、そう単純なことではないだろう。この曲は、「女のつらさ」を主に歌っているのだろうか。矢野顕子さんはフェミニストではないと思うけど、多くの男性の中で女性でありながら、いろいろな苦労に遭遇しながら戦ってきた人ではないだろうか。

 いや、戦いがどうの、と血なまぐさい書き方をする必要はなかったかもしれない。ことさら「女」を売りにしてきたわけではないように見える矢野顕子さんだが、おそらく男性を中心にかたちづくられている音楽業界でさまざまなことに直面され、それらを乗り越えながらやってこられたのではないか。

 いかんいかん。僕のこのような視点が男性的なのかな。奥田民生さんの歌う「女もつらいけど 男もつらいのよ」が、強く耳に残ったのはなぜだろうと、そのことが数日を経た今も気になっている。
 
 

 
 iOSアプリ「Zen Brush」を用い、iPadで描いてみたんだけど、なんだか怪しげなおっさんのようになってしまった。なので、奥田民生さんを描いたのではない、ということにしておこう。
 

 
 

Yasu
  • Yasu
  • デザイナーを経て、クリエイティブディレクター、コピーライター、ライターに。「ベースボール」代表。広告&Web企画・制作、インタビュー構成をはじめ『深川福々』で4コマ漫画「鬼平太生半可帳」連載中。書籍企画・編集協力に『年がら年中長嶋茂雄』など。ラフスケッチ、サムネイル作成、撮影も。