渋谷パルコの「かないくん展」

 
 昨日、時間をつくって、渋谷パルコPart1の3階にあるのパルコミュージアムで開催されている『かないくん展』へ行ってきた。いや、最終日にどうにか足を運ぶことができた、というべきか。この展覧会では、谷川俊太郎さんと松本大洋さんがつくった絵本『かないくん』に関連するもので、谷川さんの詩や、死について観客(だと思う)にたずねた動画が流れていたり、あれこれ展示。ひとつの部屋で天井(頭上といったほうがいいか)に投影されていた映像が、僕には興味深かった。

 それは、松本大洋さんがかないくんを描く過程を追ったもので、丁寧な仕事ぶりに目を引き寄せられた。松本さんは、背景と人物をまず別々の髪に描いていた。背景として、生成りの色みたいな感じの色を刷毛で塗り、人物はステッドラーのシャープペンシルのようなもので少しずつ少しずつ描く。それから背景を描いた紙の下に、人物を描いた紙を敷き、ライトテーブルの上で(人物画を透かしながら)背景の紙に描く。絵の具は、あれはアクリルガッシュだったのか、水彩だったのか(前者のように思えた)を用い、やはり少しずつ少しずつ、細い面相筆で彩色し、最後に、かないくんの上や背景にホワイト(白い絵の具)を散らす(雪が降っているように見せる)。

 描かれていた絵は、展示されていた原画を見るとA4に収まるくらいのサイズだったと思うが、工芸品をつくるような、細心の注意を払いながら制作しているように、僕の目には映った。

 同作の絵本はうちにもあるのだが、松本さんの丁寧な仕事ぶりを目にすることができてうれしかった。オリジナルティとクオリティの両方のレベルが極めて高い、松本さんでもあれくらい丹念に描いているのだから、僕のような者はせめて丁寧な姿勢だけでも学ばねばならない、そう感じた。
 
『かないくん』のテーマだと思える(テーマという言い方が正しいかどうかはわからない)「死」についても考えを巡らせたが、松本さんが絵を制作する風景に目を奪われたのは、このところ、僕にとって絵がとても気になる対象だからだろうか。

 
文:谷川俊太郎
絵:松本大洋
監修:糸井重里
発行:東京糸井重里事務所(ほぼ日の絵本)
 

 
 
 

Yasu
  • Yasu
  • デザイナーを経て、クリエイティブディレクター、コピーライター、ライターに。「ベースボール」代表。広告&Web企画・制作、インタビュー構成をはじめ『深川福々』で4コマ漫画「鬼平太生半可帳」連載中。書籍企画・編集協力に『年がら年中長嶋茂雄』など。ラフスケッチ、サムネイル作成、撮影も。